診療をしていると「舌に急に黒いシミができて心配だ」と来院される患者さんが時々いらっしゃいます。鏡で偶然見つけた時の不安なお気持ちは、痛いほどよく分かります。今日は専門家の立場から、その見分け方のポイントと、私たちの診察の流れについてお話しします。まず、私たちが診察で最初に見るのは、そのシミの性状です。ぷっくりと盛り上がっていて、紫色や黒っぽい色をしている場合、私たちはまず「血腫(血豆)」を疑います。患者さんに「最近、舌を噛んだり、硬いものを食べたりしませんでしたか」とお尋ねすると、ご本人も忘れていたような些細なきっかけを思い出されることがよくあります。この場合は、通常一、二週間で自然に消えることをご説明し、経過観察とします。次に、シミが平坦で、茶色から黒色を呈している場合は「色素沈着」の可能性を考えます。喫煙習慣やコーヒー、紅茶の摂取頻度など、生活習慣についてお話を伺います。これらは病的なものではないため、特に治療の必要はありませんが、禁煙などの生活指導を行うこともあります。舌の表面が黒い毛羽立ったように見える場合は「黒毛舌」です。口腔ケアの状態を確認し、舌ブラシによる清掃方法などをご指導します。そして、私たちが最も注意深く診察するのが「悪性黒色腫」の可能性です。これは非常に稀ですが、見逃してはならない疾患です。私たちは、シミの形が左右非対称でないか、境界ははっきりしているか、色にムラはないか、大きさは6ミリを超えていないか、そして最近変化があったかなどを詳細に確認します。少しでも疑わしい所見があれば、私たちは躊躇なく、大学病院などの高次医療機関の口腔外科へご紹介します。心配なシミがあれば、自己判断で悩まず、まずはお近くの歯科医院にご相談ください。ほとんどは心配ないものですが、プロの目で確認することが、何よりの安心に繋がります。
歯科医が語る舌の黒いシミの見分け方